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2/01/2007

2007.02 カステロ・ヴェッキオ美術館~カルロ・スカルパの建

“孤高の建築家“の暖かな仕事
カステロ・ヴェッキオ美術館~カルロ・スカルパの建築(ヴェローナ)
 日本では、もしかしたらここイタリア以上に名の知られた建築家なのかもしれない。
カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)。ヴェネチアでうまれ、繊細な仕事を残し、日本文化に大いに影響を受け、(1978年仙台市を訪問中に亡くなったという。)静かに、しかし最後まで独自のスタイルを貫いた「孤高の建築家」。

 この場を借りてクリエイターの皆さんに、建築の知識も浅い私ごときがお伝えすることもない...口にするのもおこがましいほど有名な建築家なのだが、あえてこの名を出してしまうのは、やはりその仕事の素晴らしさを“オォっ!”と声をだして伝えたくなったからである。

 

ところで...
 昨年はイタリアルネッサンスの巨匠、アンドレア・マンティーニャ(Andrea Mantegna)の没後500年。そこで2006年9月16日から、つい先日の2007年1月28日まで(本来は1月14日まででしたが、異例の延長ロングランとなりました!)マンテーニャをテーマとする展覧会が、画家ゆかりの地パドヴァ、マントヴァ、ヴェローナにて開催されました。過ぎた展覧会の紹介で申し訳ないのですが、いや本当に素晴らしかった!

 今回は長期ながらも時間が取れず、訪れることができたのはヴェローナ会場のみ。しかし...第一会場となったパラッツォ・デッラ・グラン・グアルディア (Palazzo della Gran Guardia)には、確かにマンティーニャの秀作が大集結!中でも地元ヴェローナのサン・ゼーノ教会の暗がりの奥、主祭壇にていつもはひっそりと輝きを放っている三幅対祭壇画(Trittico di San Zeno)が、美術館の開けた明るい空間にドンッと置かれていたのにはびっくり。この絵の展示が目的である展示会に来ているにも関わらず、自分の目を疑う始末。この祭壇画にこれほど近づいて、前から後ろからグルグルまわって見ることのできる機会というのは、生きているうち二度とないだろうなぁ...。
 展覧会は終了してしまいましたが、ヴェローナに来る機会があったなら、アレーナは勿論ですが、ぜひサン・ゼーノ教会に足を運んでみてくださいね。

 前置きが長くなってしまいましたが、今回マンティーニャ展の第一会場でチケットを購入した際に、“同じチケットでカステロ・ヴェッキオにも入れますよ。”と言われ、チケット代を無駄にはすまい!と意気込み向かった14世紀の古城(カステロ=城、ヴェッキオ=古)。現在は美術館としてヴェローナの主要な観光拠点となっており、もしあなたがイタリア美術愛好家ならばここで寝泊りしたくなるほどのコレクションが揃っています。ピザネッロ、ベリーニ、フランチェスコ・カロト、通常はマンティーニャ(マンティーニャ展期間中は、第一会場にすべてのマンティーニャは持ち去られていた)などの華々しい絵画、ヴェローナの歴史的財産ともいえるジュエリー、武器、宗教絵画、彫刻等々。そしてそれらを引きたたせ、訪れた人々の長い美術館めぐりを、より心地よい雰囲気に変える魔法。それは古城の存在感をそのままに、窮屈な空間を開放的に、採光をより自然に、そして城の歴史を忠実に...と繊細な配慮が施し尽くされたカルロ・スカルパの建築計画に他ならないのでした。

 建築雑誌等の媒体では、天気の良い日にくっきり撮影された写真が採用されていることが多いですよね。私達がヴェローナを訪れた日は、最高に寒く、どんよりと今にも雪が降り出しそうな雲に空は覆われ、更に街全体が霧に覆われ、行き交う人々も八割方が毛糸の帽子を耳が隠れるように深くかぶる(MIRRO2人も、あまりの寒さにデパートで帽子を買いました。)ような最悪の天候。しかし、そんな中で見るこの偉大な建築家の仕事は、意外にも暖かく、そしてやさしく感じられたのでした。
 ガラス・鉄が多く使われ、比較的鋭角なデザインのパーツ、かっちり組まれた格子扉など、一見冷たく見えるアイテムが数多く取り入れられているのに、この暖かさは一体どこから?そして何故ゆえに?
 謎を解くべく美術品を見ながら、また入口にもどりゆっくり空間を眺めながら歩いてみました。そこで気付いた事。私は建築はド素人ですのでついデザインばかりに気を取られ、肝心な事 “この美術館(城)は完全に修復され、その上にデザインが施されている” をすっかり忘れていたのでした。お恥ずかしい。
 1Fの展示室は壁の多くの面積がガラス張りになっており、中庭とまるで壁なしで繋がっているような錯覚を起こすのですが、鉄の窓枠と分厚いガラスは外気をぴったり遮断し、室内にはかなり大きな暖房機が各所に目立たぬよう設置されています。この展示室は彫刻がメイン。普通の美術館よりは若干高めの黒の台座に設置された彫刻が多い(これも建築家の意図)ので、台座と同じ色に塗られた低い位置にある暖房が、まったく気にならないのです。
 外光がふんだんに射し込む展示室の照明は、暖色系。それに対して窓の少ない展示室の照明は蛍光灯。塔の展示室においては、古い天井の木の梁をむき出しにし、年数を経た木独特の存在感が、それだけでは白すぎる壁をたしなめるように落ち着かせ、調和しています。そして多くの美術誌が逃さず解説するメインの建物と塔の2階部分をつないだ橋。鉄とコンクリートと木がうまく使われて、建物に馴染んでいる上に、霜が降りるほど寒い日だって、滑らない。

(滑る靴を履いていたら話は別ですが...)靴底がぴったり地面についてる安心感。だから、欄干にしがみついてちょっと身を乗り出して、中庭と城壁、そしてあえて建物の一部をカットした形で設置された騎馬像の彫刻までもじっくりと見ることができます。手がちょっとかじかんでも、扉は自動ドアが多いので大丈夫...。人に悟られないほど自然な心くばり。そして調和。日本人に愛される建築家カルロ・スカルパ。繊細な魂を持った偉大な師であったのだろう。
 閉館の放送に、後ろ髪ひかれる思いで美術館を後にしながら、ヴェネチアにあるという彼の多くの作品を「見に行こう!」「オォ!」っと、いつ実現するかわからぬ計画に会話を弾ませる私達なのでした。


カステロ・ヴェッキオ美術館のホームページ
http://www.comune.verona.it/castelvecchio/cvsito/