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12/01/2006

2006.12 年末の大仕事~イタリアのクリスマスプレゼント事情

『年末の大仕事~イタリアのクリスマスプレゼント事情』

日本で言うところの“お歳暮”にあたるのがイタリアでは“クリスマスプレゼント”。その力の入れようといったら、まったくただ事では済まされない。去年と違うプレゼント、少しでも個性

的なプレゼントを探すことに全力を傾ける人々のパワーには、圧倒されるばかりである。ミラノに限って言うと、127日の聖アンブロージョ(Sant'Ambrogio 聖アンブロシウス:ミラノ市の守護聖人)の祝日前後に行われる「オーベイ!オーベイ!(Oh bey Oh bey)」というイベント、そしてミラノ見本市会場で行われる、毎年恒例の国際職人(手工業)見本市は、そんな北イタリア市民の格好のプレゼント狩りの場となる。いずれも楽しいイベントなので、機会があればいつか詳しく紹介したい所だが...本題に入ろう。

私たちは一体何者なのか?何のお仕事をされているのですか?そんな質問に答える機会が多い今日この頃。『はい、デザイナーです。』『はぁ、彼は教師で。』『ええ、絵描きです。』出会う人と目的によって少しニュアンスを変えながら第一声を発し、その後具体的な説明を開始することになる。ひとつに絞れたらいいのにと、考えることもしばしば。そんな中でも最近『はい、2人ともアートをやってます。(私たちはアーティストです)』と答えるのもいいなと思えるようになってきた。大きく飛躍した表現で~嫌味にも思われず~それなりにインパクトを与える事ができるという事も。

さて、そんなアートをやっている私たちに、友人を介して“BIGプレゼント”がもたらされたのはつい先月の事。『某弁護士事務所のクリスマスプレゼントに現代作家の版画を』そんな手間はかかるが大変魅力的なお仕事のお誘いであった。

その後すぐに直接依頼者から電話があり、はやくもその翌日夕方、私たちMIRRO計2名はそれぞれの近作を持参し、依頼者の事務所へ向かった。

現代近代美術の彫刻、絵画作品がさりげなくちりばめられた事務所内は大変モダンな空間。今は生産されているはずもない某有名デザイナーの照明、座り心地も見た目も素敵な椅子にピカピカの大テーブルがある会議室。プレゼン後すぐに具体的な話となり、私たちはそのクリスマスプレゼントの全貌を知ることとなる。

●某弁護士事務所スペシャルクライアントへのプレゼント:毎年新しく見出した現代美術作家による限定部数180枚リトグラフもしくはそれに相当する版画(スペシャルカバーに入っている)+毎年新たに発掘し吟味した現地直送ワイン6本セット(ラベルはプレゼントとなる絵画作品をレイアウトした、これまた限定物!)

いったい一人のクライアントに対して、いくら金額をおかけになるのだろうか?!

「いや~うちらのプレゼントレベルとは雲泥の差だね。」

「金額が真心ってわけじゃないでしょう。」

「でももらったら相当うれしいねぇ~。」

北イタリアの夜、寒さに手が悴む11月の帰り道、形式上返事待ちではあったが、すでに私たちの頭は、これだけのものを数週間で仕上げなければならない緊張感と、MIRRO1の作品の場合は銅版画、MIRRO2の作品の場合原画はアクリルなのでリトグラフかセリグラフ...さてどこに印刷を頼もうか?というこの地ではまだ未開拓の問題にぶち当たって熱くなっていた。

結果としてはMIRRO1の銅版画に決定し、作品カバーから大まかなワインラベルのデザインまで全て、私たちが行うこととなった。

嬉しい!と祝杯を挙げる暇もなく、『もらったら相当うれしいプレゼント』納品までその時点で残すところ約10日。180枚の銅版画印刷を版画工房に発注、規定外のサイズの印刷を、品質良く仕上げてくれる印刷屋を探すことから版下作業まで怒涛の10日と予想外の事態、そして更に予想外の巻き返しを経て、つい先週めでたく納品。

期限に間に合い、その後の梱包作業に支障をきたすことなく納品を果たした私たちを見る依頼者の眼差しと安堵の笑顔から、この仕事が私たちから彼にとっての相当うれしいプレゼントになったことを確信した。

[イタリア風 ほんの気持ち]
ところで・・・
イタリアではクリスマスの時期、驚くほどクリスマスパーティーやお食事会が頻繁に行われます。職場の仲間、友人同士、教会(=ご近所同士)で、趣味の学校(語学等々)で。“肝心の24日は教会のミサに行き、25日は家族とできれば食卓をかこみたい。それまでに、是が非でも彼・彼女に会って○○を渡さなくては!”パーティーの多さは会いたい人に会う機会を増やすために、実際必要なのかもしれません。日本ではよく贈り物を渡すとき「つまらない物ですが」「お口にあいますかどうか?」と言いますが、ちょっとしたものをというような謙虚なイタリア語も存在します。~Pensiero (気持ちや意見という意味もありますが、ちょっとした贈り物や思いやりなどを指す言葉です。)~市場で買ったワイン一本でも、オリジナルワイン6本+絵画でも、ぬいぐるみでも毛皮のコートでもPensieroペンシエロ。「ほんの気持ちです!」日本もイタリアもここらへんの感覚は、意外と近いものがあるようです。Merry Christmas!

11/01/2006

2006.11 貧しさのディナミズモ JANNIS KOUNELLIS展より

Jannis Kounellis(ヤニス・クネリス)。発音が難しいのでクウネルス、クーネ リスetc...とカタカナ表記は変わるものの、美術好きな方なら一度はこの名前 を耳にしたことがあるのでは?今まで開催されたどの展覧会においても、この作 家のプロフィールは1960年代後半、イタリアで生まれた美術運動アルテ・ポーヴ ェラ(il movimento dell’Arte Povera “貧しい芸術”)のメンバーとなり.. .という書き出しから、1969年にローマの画廊Galleria L’Atticoでの“12頭の 生きた馬を用いた展示”に至り、その後の世界レベルの飛躍的な活動が解説され て行く。日本においても何度か企画展示が行われ、作家本人が来日し、制作をし たこともある。“ヨゼフ・ボイスに続く現代美術において最も重要な位置を占め る芸術家”といった解説も見受けられるこのアーティストの、美術史上の位置や 価値はその道の専門家におまかせし、ここでは現在ミラノで開催中の展覧会“JANNIS  KOUNELLIS 展”の印象を少しでもお伝えできれば。 今回の展示を一言で表現すると...“調和”この言葉が真っ先に思い浮かぶ。 会場と展示作品の調和。それが見事になされた時、観客もまた空間に溶け込む様 な、何とも言い難い感覚を味わうことになる。心地よい緊張感と共に、静けさの 中で作家のメッセージをじっくりと受け止める事ができる、作品観客相互にとっ て、幸運な出会いの空間が実現している。 展覧会会場のアルナルド・ポモドーロ財団は、ミラノ中央駅から地下鉄2番線、Sant ’Agostino(サンタ・アゴスティーノ)駅にて下車、路面電車14番に乗り、左手 に建設中のスーパー、右手に教会が見えればそこからは目と鼻の先。時間があれ ば、公園と街路樹、引っ切り無しに往来する散歩中の犬を眺めながら地図を頼り に歩くのも、また心地良い道程。Via Andrea Solari(アンドレア・ソラーリ通り )の左手に、どう考えても倉庫か工場?という風情の建物が見えたら、それが“ アルナルド・ポモドーロ財団”。入ってびっくり3,000㎡の巨大な展示空間なので ある。 財団の名となり、中心人物であるアルナルド・ポモドーロ(Arnaldo Pomodoro) は、現代イタリアを代表する彫刻家である。イタリアに興味のある方なら、イタ リア文化会館のロゴマークを今一度見ていただきたい。そのデザインの中に、欠 けた球から機械の部品のような物がザワザワと覗いているポモドーロの代表的な 彫刻を発見できるはず。 彫刻家が計画した展示会場と言うだけあって、空間すべてが巨大作品を受け入れ るためのアイデアに満ちている。1Fから4Fは吹き抜け状態になっており、しっか り固めた地面が全面にあるのは1Fのみ。(地下もあるがパネルに塞がれており、 内部を確認する事はできなかった。)2〜4Fは通路に空中孤島のようなスペースが 段違いにくっついた形。SF映画の巨大宇宙船内部を思い浮かべると近いイメージ かもしれない。エレベーターは全てガラス張り。階段・通路にも視界をさえぎる ような壁はなく、あらゆる角度から展示作品を鑑賞できる。天井もガラス張りで 、自然光を十分に生かしている。天井付近に、移動式クレーンが備え付けられて いるのが見える。会場奥の鉄壁は搬入口か?作品がどんなに大きくとも、重くと も、作家の意向を満たす展示を実現するための設備が整っている。 さて、ここで肝心のクネリス作品展示へ話題を移そう。 会場に入るとすぐに見える590cm×590cm×高さ260cm鉄の壁、四方すべてが閉ざさ れ、一定の間隔で肉の塊がぶら下がっている、異様な黒い箱。ふと足元を見下ろ すと、肉の真下の床が滴り落ちた血痕に汚されているのに気付き、ドキッとする 。目線をそらすと鉄の壁の上から、厚手の本がこれでもかと重なり、もたれ合っ ているのが見える。この不思議な鉄壁の閉鎖された部屋は1997年に計画された作 品の再現“無題”(全ての作品タイトルが無題。つまりタイトルなし)。圧倒さ れながらも肉に近付き、展示期間中に腐敗しないものか、鼻を近づけ確認してみ たりする。 今回の展示の中で一番幅を占めていたのが、2260cm×590cmの金属の壁で覆われた 巨大な迷路状の空間。(勿論これも無題。)小高く盛られた石炭の脇に入り口が あり、この作家が好んで使ってきた素朴な素材、コーヒーの粉、古びた毛布、麻 袋、歪んだ机に教会の鐘などを使った作品が、各曲がり角や突き当りに配置され 、独特の空間を形作っている。 入場から1F、観客はこれら巨大な作品の中に放り込まれ、戸惑い、作家の意図に もまれながら作品と作品の間を巡る訳だが、歩き回りながらも、備付けにしては 妙に動きある鉄柱が要所要所に聳え立っているのが目に付く。これもまた作品で 、8m40cmもの高さの鉄柱が4本!会場に点在しているのだ。 展示会場の高さが8m40cm以上あることを知っていただいたからには、ぜひ3Fに上 がって、今度は上から下を覗いてみてほしい。入口近くの肉がぶら下がった壁作 品の内側には、何やら染みが広がっており、全ての本が画集だったり、写真集だ ったりするのがはっきりと確認できる。血と肉と芸術、過去の展覧会パンフレッ ト。芸術の朽ちてゆく様なのか、はたまた肉と精神の関わりを表したものなのか ?ぐぐっと心ゆくまま、踏み込んで決して落ちないように覗いてみてほしい。迷 路作品の中で動く人々の頭が見える。窓辺に配置された色ガラスの作品を通し、 外光が色を帯びて室内に射し込んでいる。ランプが多数配列された作品は、上の 方にあるランプの火が消えかかっている様子まで確認できる。長い会期中、何度 オイルを入れ替える事になるのだろう。 93年にヴェネチア・ビエンナーレで公開されていた、様々な帆のインスタレーシ ョンは窓側に配置され、光を十分に受けている。風を受け船を進めるために作ら れた帆は、自由で開放的な印象。しかし広い空間に船なしの帆がぷらりと浮かぶ 様からは、孤独、哀愁もまた感じずにはいられない。 受付の隣に設けられた掲示板には、展覧会記事を掲載した雑誌、新聞の切抜きが 丁寧にはられている。どの紙面にも、イタリアが誇る最も重要な芸術家2人、堂々 とした深みある容貌の笑みをたたえたクネリスとポモドーロ氏の写真が。1936年 生まれということは現在70歳。“貧しい芸術”運動から現在まで、作家の膨らみ 続ける実力と影響力をあらわす展示として、大変見ごたえのあるものとなってい る。 “JANNIS KOUNELLIS展〜ATTO UNICO” 2007年2月11日まで開催中 会場:アルナルド・ポモドーロ財団(イタリア・ミラノ市)  巨大な工場を改装し、コンサートにも対応したギャラリー空間。事務所も開かれ た空間にあり、丸見え(!)なので、ポモドーロ氏にお目にかかれる可能性も高 い。 http://www.fondazionearnaldopomodoro.it/ exibart.com ~ イタリア国内の展覧会情報サイト http://www.exibart.com/profilo/eventiV2.asp/idelemento/31974