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12/01/2008

2008.12 ダンテの神曲。

ダンテの神曲。技術系学生の心に文学の光が

MIRRO2は今期普段教えている学校以外で特別講師をしておりました。何を教えていたかってそれは美術、デザイン、建築という彼の分野を乗り越えた“演劇”!それも題材はかの有名な“神曲-地獄篇 Inferno”!!更に演じるのは電子技術系の専門校へ通う若者達!!!一体どういう組み合わせなんでしょう。いいんでしょうか、こんな仕事受けちゃって…。


 週一回の講義、毎回アイデア勝負!

高校に通うという選択はなく、そのまま仕事直結の技術を学びに来ている学生達(男子ばかり15人)、家庭環境も様々で世の辛酸を知っているなかなかの手ごわい輩達。そんな彼らにダンテを暗記させた勇気と根気のある先生がいたそうで。(ちなみにイタリアでは皆、歴史や文学の授業で必ずダンテに触れます。私達が一様“平家物語”や“枕草子”の冒頭をちょろっと言えたりするのと同じ感じかな?)こんな奇蹟がおこせたならば、何か形にしなければ!そこで、暗唱ができるというベースを活かして学期末、劇を発表しようじゃないかという話が持ち上がり、以前美術系の短期講座を受け持ったMIRRO2にお声がかかりました。「舞台監督をしろというわけじゃないし、演技を教えるわけじゃない。背景の美術や小道具を作らせるだけだよ。」という話でOKし、9月から週一回、劇制作集中講義が始まりました。
 その発言通り、初回の授業からいきなり舞台衣装作りを開始。黒のTシャツにそれぞれのイメージを自由に描かせるというもの。他のクラスメイトと同じカラー、しかし自分ではじめてデザインしたオリジナルTシャツは舞台への連帯感を高め、毎回この授業の時には皆このTシャツを着用する様に。初授業の手ごたえは良好だったようです。
2回目以降はなかなかの苦戦を強いられました。デザインする、絵を授業で描くということなど今まで経験していなかった学生達。舞台背景に森をデザインしようと決めてもだれが描くの?小道具って何作るの?音楽??アイデアはゼロに等しく、ほぼこちらで決めて提案し、ベースを作っていかなければいけません。背景用の森は下絵を狭い我が家の居間に模造紙を敷き詰めて、授業前夜に描き上げ丸めて学校へ持って行き、生徒はそれに沿って着彩。雨の音を演出しようとペットボトルに細かく切り込みを入れた鳴り物を作成。これは…実は、最近音の出るものが大好きな長男のために、私が作っていたものを流用。これは私の内職になり、長男と遊びながら数十個作成。

暗唱のみで動きの少ない舞台、せめて色を添えなければと背景にプロジェクターで自然と地獄にちなむ絵画イメージを映し出しては?と提案し、これまた自ら数百枚の写真を組み合わせるのもMIRRO2の夜なべの内職となりました。更に志気を高めなければと彼らの本職を活かし、劇紹介のホームページを作成することを提案。これは当日会場に設置したPCで初お目見えし、なかなかの好評を得ます。バックミュージックもギリギリになって、近所のCDショップで何枚ものCDを視聴しCD屋さんのアドバイスを元に決定。毎回MIRRO2の行動を継ぎはぎに見ていた私と長男。これは一体ちゃんとした劇になるんだろうか?と若干不安を覚えたりして。

 前代未聞の神曲、感動の終幕

毎回アイデアを絞りつくし、何とか1218日、上演当日にたどり着きました。学生達は独自で招待状を作成し配布。学校の階段踊り場を当日の舞台用に整え、階段に手作りの灯篭を配置。会場案内をする学生は皆これまた手作りのバッチをつけて来客を待ちます。
 勿論私も長男と共に、観劇に出かけました。渋滞に巻き込まれながらミラノまで2時間半、チャイルドシートの長男は良い子でずっと眠っていてくれました。
 所要時間わずか20分の劇。導入をクラス担当のテレーザ先生が読み、それに引き続き学生達が順々に数フレーズずつ暗唱。列の前後を入れ替えたり、例の鳴り物を要所要所でシャカシャカ鳴らしたり、演出もなかなか決まっています。何より皆が間違えることなく堂々と暗唱をする姿に、全ての観客は感動。長男も最前列で時折“ブーッ、ウーッ”と唸りながらも興味深く観劇。終幕には皆が暖かく、そして大きな拍手を惜しみなく送ったのでした。

 劇が終わると同時に、皆にダンテを教えた文学の先生を学生達が取り囲み胴上げ!ここまで来るとまるで映画のワンシーンの様。感動覚めやらぬ会場で、MIRRO2を激励に。「良い仕事をしたね、よくここまで持ってきたね!みんな立派でしたねぇ」と言っているところに、テレーザ先生がやってきて、「実は昨日、劇なんてヤラナイヨッ!なんて皆が言い出したのよ。だから“やりたくないならヤメナサイッ!”って言って教室を出たの。そしたら後から彼らあやまりに来たのよ~」っと笑顔で。ややっ、そんなドラマがあったとは!何はともあれ、結果良好。これで皆幸せなクリスマスを送れそうです。