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11/01/2008

2008.11 サルティラーナ

神の家、人の家

“教会”それも“ヨーロッパの教会”というと、やはり長年の固定観念は拭い切れず、天に向かってつんつん伸びて行きそうなゴシック様式や、荘厳なバロック様式の建築を想像してしまいます。日本にも風土を活かして建てられた親しみ深い教会や、有名建築家のデザインした教会などもあるのですが、信者でない限りそれは観光名所としての存在であったり、結婚式の時だけ利用するものであったり。日常そこがどんな風に使われているのか、本来の姿を見ずに器だけで感心感動するだけじゃ、ホントに勿体無い。

イタリアはカトリックの国。(とはいっても今は若者の“教会離れ”が問題になっていたりもするのですが)暦はもちろん日常生活、結婚、出産(洗礼があるので)など人生のイベントにあたっても、地元の教会がまだまだ重要な役割を果たしています。子供達は学校から帰って午後には教会のオラトリオ(青少年の集会所や教会のイベント施設。サッカーも出来る広い庭があったりもする。)に行って元気に遊んだり、ある時期になるとカトリック要理をシスターや神父様について教わったりします(ここでお行儀も教わる?)。大人は祈りの会だけではなくコーラスやバザー、その他最近はヨガやテニスなどのサークル活動をしたり、老人はミサの後おしゃべりしたり、毎年バスで巡礼ツアーに行ってみたり。日曜日のミサの後も、住んでいる地区のほとんどの住民、知った顔に出会う時なので“やあっ!”“調子はどう?!”っと教会の前はとってもにぎやか。

 風景の一部ではない、人の住む生きた街にある家

 と、ここまで前置きをしておいて、本題に入ります。このブログ上で何度も名前が出ている建築家マリオ・ボッタ(Mario Botta)。そのボッタがデザインした教会、ミラノから車で約40分~1時間のメラーテはサルティラーナ、ブリアンテア地区(Merate, Sartirana Briantea)にある使徒聖ペトロ教会(Chiesa S.PIETRO APOSTOLO)に行ってまいりました。周囲を森や畑に囲まれた山中の住宅街、蛇行する道に不安を覚えても「ボッタの教会はどこ?」と聞けば、誰もがすぐに道を教えてくれますし、ご丁寧に道案内の標識にまで、“サルティラーナ教会、マリオ・ボッタ設計”と書いてあります。坂道を登りきると、例の手焼きレンガの優しい赤茶色をした教会が、オラトリオのグランウンドを背景に視界を遮るものもなく、独特の存在感を誇りつつ現れます。
 基本的には規格のダンボール箱と同じような比率の箱型、天変の十字架と鐘を主軸に正面下部左右のブロックをポコッと取り去って階段と採光のスペースに。つまり建物正面は丁度T字型になっており、まるでちょっと角ばった巨大な樹を想わせるので、ミサの時など中心の幹(入口)に向かって左右下部から人がぞろぞろと上がって、中に吸い込まれていく様子は象徴的とも言えます。 

ボッタが設計した教会はこの教会一つだけではなく、スイスやトリノ(トリノの教会はその規模からもかなり有名)にもあります。それだけに、何が教会に必要なのか?そのコンセプトは、<私は“神の家”を“人の家”を思い描きながらデザインした:人が生き、人の作った街に息づく風景の一部などではない神の家>(私の翻訳は拙いので怒られそうですが、人は神の手によるものなので、人の創造物も最終的に神に捧げられるような“循環”を想像させるような書き方をしている)というボッタ自身の言葉からも、しっかりと伝わってきます。

 光、静けさ

訪れた日は日曜日だったので、教会では11時からのミサが始まっており、地元の方たちで教会内は満席になっていました。私達も入口付近に立って参加。ミサが終わるのを待ちます。ミサに参加した事でインテリアの設計の使い勝手もしっかり見ることができました。教会の核とも言える聖櫃(聖体を安置する場所)は、祭壇脇、十字架のキリストの下に重要さを欠かない程度の簡潔なデザインで設えられ、洗礼の際に必要な洗礼盤は右後方、まるで野外モニュメントのミニチュアの様な不思議な存在感で、はじめはそれと気付かなかったのですが、聖水を湛える役目を果たしながら水をすくいやすい実用的なデザインになっています。椅子、パンフレット置き場なども全て木で統一され徹底的にシンプル。その簡潔さゆえに、晴れた日は祭壇後方のステンドグラスがとても神秘的に光を室内にたたえますし、また雨や曇りの日、夜には天井に吊るされたランプが柔らかな光を放ち、レンガの温もり、木の暖かさを引き立たせ、教会にありがちな冷たさは感じられません。
 この日は雨で気温も低く、コートなしではいられない寒さだったのですが、ランプの優しい明かりがミサに参加する街の人たちを包み込み、視覚的にも、そして人の温もりも手伝って教会内は温かく、雨に濡れた傘もしばらくするとほぼ渇いてしまいました。

音が降りてくる

 教会といえばコーラス隊。ミサの中では賛美歌が歌われ、オルガンの演奏もあります。多くの教会が入口上部にコーラス隊やオルガンのスペースを持っているのですが、この教会もまたしかり。しかし面白いことにここではまるで芝居小屋のように上部のバルコニーが2層になっていて、さらに円形にぐるりと回れるようになっており、人数が多いコーラス隊でもスペースたっぷり。私達も登ってみました。上からだとランプがみっちりと配置されている様子もわかりやすく、天井の組み方もしっかり見ることができます。

 今回もちいさな長男を連れて行ったので、そのためでしょうか、ミサの終わりに司祭様が私達の方にスッと立ち寄り、私の手にルルドのマリア様のメダイを置き、握らせ、5ヶ月の息子の額に手を当てて祝福をしてくださいました。“あの!見学なんで写真を…”と言いかけたのですが、司祭様は微笑むとさっと立ち去ってしまわれました。動揺しましたが、長男のためにもよかったね!と相棒と話しつつ、写真はおそらく皆さんなれているのか撮影しても何も言われず、問題なし。かえってキョロキョロしている私達にたずねる前に階段の場所を教えてくださったり、パンフレットをくださったりと、大変親切にしていただきました。ミラノを訪れる建築家や学生さん、レンタカーを借りればちょっとの距離です。ピクニックがてらに立ち寄ってみてはいかがでしょうか?